ガラスの棺 第27話 |
右手に棺、左手に人間を二人抱え空中で停止しているKMFと、黒の騎士団の創設者である仮面の英雄のKMFが対峙している間に、補給を終えたモルドレッドとトリスタンが辺りをけん制した。 既にエナジーが尽きかけているはずの蜃気楼の背後に回り込んだジェレミアは、ゼロの邪魔にならないようエナジーの交換を慎重に、そして手早く行った。この瞬間が一番無防備になる。攻め込まれたらという不安が脳裏をよぎったが、予想外に彼らは沈黙を守り、ただそこにいた。 黒の騎士団の機体には、超合集国議長皇カグヤと、オープンチャンネルを使った神聖ブリタニア帝国皇帝ナナリーからの通信が入っており、女二人の口論と共に、その棺を自分の元へという命令が出されていた。 口汚く互いを罵り合う二人の姿に呆れていると、ゼロは蜃気楼を降下させアヴァロンに着艦した。それに倣い棺を手にした黒の騎士団の機体も着艦する。 この行動に激高したのはカグヤだった。 『何をしているのです!私は着艦せよと一言かいいましたか!?私の命令に背き、これ以上勝手な行動を取るなら、その地位を失うと心得よ!今すぐにその場を離れ、棺を私の所に持ってくるのです!っ、降伏など、認めません!』 遠巻きに2騎を見ている黒の騎士団のKMF。 ゼロの周りには、かつて最強と呼ばれた元騎士たちのKMFが3騎。 数では勝っていても、戦力では負けている だから負けを認め降伏するのではと、カグヤは慌てた。 『あなたの腕なら、その場からの撤退は可能なはずです。ミレイさんとリヴァルさんはその場に下ろして、あなたはブリタニアの方角に移動してください。間もなくこちらの艦隊がそこに到着します。大丈夫ですよ、身の安全は保証しますし、黒の騎士団より良い待遇で迎えますから』 つまり、この戦場にミレイとリヴァルを置いて行けと。 二人を見捨てろという命令だった。 ナナリーの真意はわからない。 ゼロたちがいるし、棺が離れれば戦闘が終わるから、二人は安全だと考えているのか、ルルーシュの遺体の存在を知りながらそれを隠し、敵対するような行動を取ったことで見捨てることにしたのか。どちらにせよ不愉快な内容だった。何より地位で釣って黒の騎士団を裏切れというその言い方が気に入らない。 相手が不快に思っていることなど気づくこと無く、ナナリーは ブリタニア軍は黒の騎士団の足止めにあっていたが、この戦闘で黒の騎士団の内部が混乱したため、その隙に防衛ラインを突破したこと。あと10分もかからずに、ブリタニア軍は到着するからブリタニア方向へ逃げれば、すぐにでも合流できると告げた。 黒の騎士団が混乱したのは、トップの醜い争いのせいだとは思っていないらしい。ブリタニアが混乱しなかったのは、ナナリーの横暴さを知っていたからにすぎない。 『お黙りなさい!これは黒の騎士団の問題、口出しは無用!』 『黙るのはあなたです!これはブリタニアの問題。部外者は下がりなさい!』 そんな言い合いをうんざりと聞いていると、ジェレミアの機体が近づいてきた。 「・・・大体、両手が塞がって武器も使えない状態でスザクとジノ、それにアーニャ相手にどうしろっていうのよ。これって、どう考えても死ねってことよね」 あー、やだやだ。 『何か言いましたか?』 『武器がどうかしました?』 「いえ、なんでもありません」 思わずつぶやいた声に二人は反応したが、全部は聞こえなかったらしい。 やばいやばいと、慌てて口を閉ざす。 目の前に立ったジェレミアがKMFの手を差し出してきた。 ナナリーとカグヤは馬鹿な事は止めろと怒鳴りつけてくる。 だがそんな声には一切構わず、伸ばされた手にはまず左手を差し出した。左手で支えていた二人は体が強張っているのだろう、ぎこちない動きであちらの手に移動した。怖かっただろう、こちらの腕は物をつかむように出来てはいないしよく滑るから。 本当ならすぐに降ろしてあげたかったが、腰が抜けてそうな二人を下ろすより、ジェレミアに艦橋へ運んでもらう方が速くて安全だったから。 そのやりとりの間、カグヤとナナリーは口を閉ざしていた。 ゼロに与したといっても相手は民間人。 カグヤでさえ名前を知っている者達だ。 捕虜にと考えていたが、生きたまま連れ帰るのは難しいだろう。無理して手にしたまま空を飛びまわり、二人を死なせてしまえば批難はまちがいなく黒の騎士団、そしてカグヤへ向く。だから身柄を渡すことには問題はないし、なによりこれで手が開く空く。 つまり戦えるようになる。 『すぐに離脱しなさい、援護させ・・・』 アヴァロンに着艦したのはそのためだったのかと納得したカグヤはすぐに命令を下したが、その言葉を最後まで言う事は出来なかった。 『全騎に次ぐ、これより超合集国及びブリタニア軍のKMFを殲滅する』 殲滅。 つまり、一騎残らず討ち取れ。 蜃気楼から発信されたゼロの言葉が、オープンチャンネルから流れてきた。 パイロットはその命令に笑みを浮かべる。 「了解です、ゼロ」 迷うことなく返した返事に、通信の向こうにいる二人は目を丸くした。 『え!?』 『そんな!』 まさかと、二人は驚きの声をあげたのが滑稽だった。 忘れているのだろう、私が誰かを。 私が付き従うのは黒の騎士団でも、ましてやブリタニアでもない。 そんな簡単な、当たり前なことを忘れるなんて馬鹿よね。 「ゼロの親衛隊隊長紅月カレン、いまより参戦します」 それは、明らかな裏切りの発言だった。 「カレン!貴方は超合集国を裏切るつもりですの!?」 カグヤはモニターに映る赤毛の女性を睨み、怒鳴りつけた。 いつも自分を護衛していた、古くからの知り合い。 黒の騎士団の零番隊隊長にして、エースパイロット。 オープンチャンネルで行われたカレンの発言は、当然黒の騎士団のパイロット達の耳にも入っており、迷いもなく、むしろ無く当然だといいたげにあちらに与したことで、黒の騎士団のパイロットたちは激しく動揺した。 黒の騎士団結成時からいて、ゼロの片腕とも言えるカレンの裏切り。 ・・・そして黒の騎士団の敵は・・・ゼロ。 『裏切るも何も、私は黒の騎士団零番隊隊長紅月カレン。零番隊はゼロの親衛隊ですから、その隊長である私はゼロの元に戻っただけです』 カレンはなおも平然と答えた。 「何を馬鹿な事を!黒の騎士団は超合集国の軍隊です!」 『確かに今は超合集国に取り込まれてしまいましたが、私にとって黒の騎士団はゼロあってこその組織。ゼロがいるからこその黒の騎士団。お忘れですか?ゼロがいたから私たちは戦えた。ゼロが正義を行ったからこそ、私たちは正義でいられた。ゼロが超合集国の軍隊、黒の騎士団を見捨てたなら、私が残る理由はありません。私はゼロの新しい騎士団に入るだけです』 そう、黒の騎士団はゼロの、ルルーシュのための組織。 ルルーシュの目的を果たすために生み出されたもの。 ブリタニアを倒し、世界から争いを無くすための組織。 それが解らなくて、あの時裏切った。 裏切られたと思って裏切った。 君は生きろと言ってくれたのに、信じられなかった。 今度は間違えない。 そもそも、私は彼の棺を守るため黒の騎士団に残り、カグヤの傍にいたのだ。本当はこんな地位さっさと捨てて合流したかったが、結果的に我慢して正解だった。 「何を馬鹿な事を。あのゼロはスザクなのですよ!」 ルルーシュでは無いと言いたいのだろうが、そんな事今更だ。 『だから?あのゼロの中身が誰かなんて些細なこと関係ないんです。あのゼロが、彼の意思を継いでいるかどうかが大事なんです。もしゼロとして間違った道を進むなら、あいつの頭をぶん殴ってでも正すだけですから』 「間違った事をしていないと!?あなたの目は節穴ですか!ゼロは過ちを犯たのは明白!ルルーシュの遺体を盗み出し、我々の命令に逆らい敵対しているのが何よりの証拠!これは我々に対する裏切り行為にほかなりません!!」 カグヤの怒り対し、返ってきたのは呆れたようなため息だった。 『裏切ったのはゼロですか?逆ですよねカグヤ様。あの時と同じく、黒の騎士団はゼロを裏切ったんです』 彼ではない、貴方たちが。 議会においてゼロの言動を封じ続け、争い続けていた事だけではない。 ルルーシュの遺体を暴き、辱めようとした。 理由は関係ない。 方法も、どう扱うかも関係ない。 再び彼を悪として利用しようとした。 それをゼロが許すはずはない。 中身がスザクなのだから余計に。 つまり、カグヤとナナリーはゼロの信頼を裏切ったのだ。 オープンちゃんねるで流れたカレンの発言は、大きな波紋となって広がって行った。 |